2016年3月4日金曜日
小林秀雄対話集 坂口安吾と三島由紀夫
評論家の小林秀雄の作品が好きでよく読む。
小林さんと言えば、あの難解な文体と何を言ってるのかよくわからない理屈で知られる。
近年は大学受験の問題に取り上げられたそうで、書店でも小林さんの関連書籍があちこちで見られるようになった。
小林さんの本には、自身で書いた評論以外にも対談集がある。
対談だけで本が出来る作家はそう多くないそうだ。評論が読みにくいからというのもあるだろうが、小林さんの対談集は文章にくらべるとはるかに読みやすい。
私が好きなのはこれ↓
人間の建設 (新潮文庫)
数学者の岡潔氏と小林さんの対話(雑談)。岡さんの優しげな人柄と、小林さんの優しい部分(優しくないときもある)が調和していて、読みやすい。分野が正反対の二人ながらお互いがお互いの分野と知性に尊敬の念を持っているので、内容が発展的だし読んでて楽しい。
小林秀雄対話集 (講談社文芸文庫)
↑今回私が取り上げたいのは『人間の建設』ではなくてこっち。
『小林秀雄対話集』では十人以上の皆さん(主に作家)との対話が収録されている。
私が面白かったのは、坂口安吾、三島由紀夫の二人。
坂口安吾は、かつて「教祖の文学」というエッセイの中で小林秀雄を名指しで批判したと言われる(安吾自身は「誉めてるんだ」と言ってる)。この対談でも触れられているが、この二人は古い友達でもある。
坂口安吾を知る方ならばご存知だろうが、この人はめっちゃくちゃな人生を駆け抜けた人だ。ヒロポン(覚せい剤、ただし当時は合法)と睡眠薬(これも合法的に入手)を交互に飲みながら一気に吐き出すように書かれたエッセイと小説は、強い力で読者を引きつける。
生き方は破天荒だったが、安吾は極めて繊細な感性を持った人だ。小林さんの繊細さは対文学におけるものだが、安吾のそれは自身の周囲にあるもの全てに対する繊細さだ。この二人はお互いにそれをよくわかっていて、認め合いつつも一歩も引かない。安吾ほど小林さんに喧嘩腰で喋る作家もいないだろうというくらい(陰で色々書いている作家はいっぱいいるけど)攻撃的だけれど、あれが安吾という人なんだろう。
三島由紀夫との対話は「秀才対秀才」の非常に穏やかなもので、貴族のサロンみたいだ。当時すでに三島は売れっ子作家だった。三島由紀夫はただの流行作家ではなく、どちらかといえば秀才というより天才型なんだけど、経歴も振る舞いもおハイソなので、秀才のイメージがある。三島作品は、文学的に見て「ほぼ完璧」と言えるほど水準が高い。小林さんも充分認める所で目尻をさげて褒めちぎってる所が良い。三島も小林さんの審美眼を認めない筈もなく、ゴロニャンと甘えている。三島の最期は有名なあの自決に終るが、その最期はまだこの対話からは想像もできないほど穏やかなものだ。時間軸での三島由紀夫を対話の中から読みとる楽しさもある。
安吾と三島というある意味正反対な作家との対話が私には面白かった。
知の巨人と言われるほどのものを確立した小林さんだが、意外に相手に振りまわされているから、存外柔軟な人だったのかも知れない。
小林作品を読みたいけど難解すぎて無理!という方は是非対話集から入ってみては。
〈これこれ、これですよ〉
教祖の文学
坂口安吾の『教祖の文学』。青空文庫なので無料。
安吾は件のヒロポン中毒のおかげでしばしば精神科に入院していたが(呑気に入院記まで残している)、小林さんが見舞いに行ったりしていたようなので、なんだかんだ言いつつ仲が良かったんじゃないかなぁ。
〈記事とはまるっきり無関係〉
からっ風野郎
何でも屋三島。インテリであることの否定というより、見られる事が好きだったんだろうな。(「ただのインテリ」と思われたくはなかっただろうけど、三島がインテリであることを否定しているとは思えない)