お化けなんかいないと決めつけてから、私の周囲からお化けは絶滅したので、私の身の安全は確保されたが、なぜか私の周りには不思議な経験をしている人が多い。
私の仕事仲間にM美という女性がいる。かれこれ20年近い付き合いになる。
真面目で地味な私とは対照的な人で、おしゃれで社交的な元
私の女友達の中で最も賢い人で、一を聞けば十を知る頭の良さと理解力を持ち、客観性と冷静さが服を着て歩いてるような人でもある。
にも関わらず、何故かお化けと暗闇が苦手。
誰かがお化けの話をすると普段の冷静さはどこへ行ったというくらい、 ムキになって止めに入るし、M美が居る事に気づかずに部屋の電気を消すと(仕事場はほとんど窓がないので真っ暗になる)、ぎゃーぎゃー騒ぐという怯えっぷりだ。
うちの仕事場には年に一度、朝から夜まで続くイベントがある。
二日間、ほぼ立ちっぱなしの体力勝負なので、ペース配分を考え、なるべく疲れないように気を使う。
毎晩仕事の後は呑みにいくM美も、この日だけはまっすぐ家に帰って早く寝る。
イベントが終った日は取り返すように呑みにいくのが恒例である。
ある年のイベントの後、何日か経って、M美と話していたらこんなことを言い出した。
こないだのイベントの後、わー終ったー呑みに行こー思って、行ったんよ。
先に軽くご飯食べて、どこ呑み行こやー、そうやここにしよって、行きつけのスナックに行ったん。
そこはマスターと息子の二人でやってる店なんやけど、結講好きなんよ。
マスターも息子もええ人でさ。
カウンターに座って、何吞もかな、まず生中頼もかなって、注文したん。
したら、なんか、カウンターの向こうで二人がゴソゴソ言っとるんよね。
何かなと思ったら「M美さん、二日続けて来るの、珍しいですよね」って。
「え?私昨日来てないよ」って言うたら、「いや、来てましたよね」って言うんよ。二人とも。
その人達は、人を騙したりするような人やないんよ。真面目でええ人達やから。やで私も行くんやし。
何やろ思て聞いてたら、昨日もM美さんが来てそこのカウンターで呑んでましたよね、2〜3杯呑んで「今日はもう疲れたで帰るわ」って帰ってったって言うんよ。
——その時、M美さん、何してたの?
家におったよ。おった筈なんよ。
お風呂入ってテレビ見ながら雑誌かなんか見てて、もう寝よかなって思てた。
——何時頃なの?
10時半頃やて。
——家で呑んでたの?
呑んでないよ。疲れたし、呑まんとそのまま寝た。
結講あるんよ、そういうの。
夜にどこそこのコンビニ(繁華街)で見たとか。
あ、M美さんやって声かけても返事せぇへんかったとか、無視されたとか、ちょいちょい言われるんよね。
私そんなとこ行ってないよって言っても、いやおった、M美さんやったって。
雑誌かなんか見てたとか言われるんやけど、そんなとこのコンビニ行く訳ないやん。
——仕事場の周りコンビニいっぱいあるもんね。昼に行けば良い。
せやろ。行くはずないんやけど、言われるんよね。
こないだも行きつけのスナックで呑んどったん。
そこは雑居ビルみたいなとこに入ってて、他の店からお客さんが流れて来るんよ。
一人で呑んでたら、そこの常連さんが覗いてさ。
同じビルの別のスナックで呑んでたらしいんやけど、他の店行こと思って覗いたみたいで。
そのお客さんがマスターに「ここには来てないね」って言うんよ。
「さっき覗いた店には居たよ。今日は居ないね」って。
——何が?
幽霊。
——は?
ああいう呑み屋には来るんやて。
さっき覗いた店にはおったけど、その店にはおらんかったって。
この前来たときはおったけど、今日はおらんて。
来るくらいでなけやな、あかんらしいよ。
賑やかなとこに来るらしいんよ。
——幽霊も来ないようでは生きてるお客さんもいない、と。
うん。幽霊も来んようになっては、あの店はあかんなって。
恐がりでお化けの話は半べそになって止めに入るM美だが、この話は実に淡々と語っていた。
彼女の想像の産物であるモンスターには無力でも、現実に自分の身に起ったことは冷静に対処している。目の前の事には客観的に向き合うようにギアが入るらしい。
M美は家族と暮らしているので、家に居る限りはアリバイもある。家に居たというのは、幻覚でも夢でもない。
冒頭の「行かない筈の場所で目撃された」話の真相は、いまだにわからず。
K-NM316 YUTAIRIDATSU 幽体離脱注意 オリジナルキーホルダー 100エンケータイステッカーシリーズ (白)