2016年6月20日月曜日
映画「コラテラル」を見た
トム・クルーズが「年と共に妖怪のように若返って行く」と言われるようになってから久しいが、「形あるものいつかは崩れる」という地上の真理に逆らえる訳も無く、彼もいつかはピカピカの美形の看板を下ろさなければならない日が来る。
その時はきっとこんな感じになるんだろうな、と思わせてくれたのが「コラテラル」だった。
この映画の主役はトム・クルーズが演じた殺し屋のヴィンセントということになっているが、話の中心はジェイミー・フォックスが演じたマックスというタクシーの運転手である。
マックスは真面目で誠実な性格の運転手さん。たまたま乗せたお客さんがヴィンセントという殺し屋で、仕事ぶりが気に入られてしまい、一晩中殺人の手伝いをさせられるかわいそうな人物だ。
マックスとヴィンセントは性格がまるで違う。
ヴィンセントは感情がなく、人を殺すことに罪悪感を感じている様子がない。(あるわけない)
対してマックスは「ごく当り前の感情と常識」を持った人で、常識的な見地からヴィンセントを控えめに批判する。
ヴィンセントは怒るそぶりも見せず、マックスに欠けている性格的な弱さを逆に指摘する。
自分のまともっぷりは熟知していたであろうマックスが、ヴィンセントに痛いところを突かれて、自分とも向き合わなければならないようになる。
この「状況に適応しないと生きていけないからドライに割り切る」人と、「真面目に誠実に暮らして行けばいつか日の目を見ると信じ込んでいる」人との心理劇がこの映画のキモなんだと思う。
一人の人間が全てを持つのはどだい無理な話で、マックスとヴィンセントのように、違う人間がお互いに刺激し合って成長していくというのは、至極まっとうな人間関係のあり方だ。
ヴィンセントの達観した考え方は殺し屋という職業的なことから来ているというのも勿論あるんだろうが生来のものでもある筈だ。もしヴィンセントが殺し屋じゃなかったら、存外この2人は良い友達になれたんじゃないかと思った。
2人が不幸なのは、ここに行き着くまで2人が知己でなかったということだろう。
トム君の年齢から言ってこの白髪まじりのヴィンセントの様子が、実際の今のトム君の様子にちかいんじゃないかなぁと思う。それくらい、自然な白髪だった。
スーツも地味なグレイだし、ハデなアクションもなく、人間味がまるでない役だったから「トム・クルーズが悪役を演じた!」と話題になったそうだが、私、この映画の本当の悪役は暗殺の指示を出したファニングだと思うんだけど、どうだろう。
今度はファニング役を是非演じてもらいたい。
コラテラル (字幕版)
マックスがヴィンセントばりに喋ってるシーンが私にはジェイミー・フォックスがトム君のモノマネをしているようにしか見えなくて笑った。