2016年4月17日日曜日

昭和に戻せ!の叫び



まだ今みたいにみんながネットを使っていなかった頃、コンピュータは一部の専門技術者だけが扱うものだった。
SEに、「コンピュータって一体何が出来るの?」と聞いても「ふん」と笑って教えてもらえなかった、という経験を、誰もが一度はしたものだ。




自分がコンピュータを使うようになって、「コンピュータで何が出来るのか」を一言で表現するのはとても難しいのだということがわかるようになった。

触ったことがない人が言葉だけでコンピュータを理解するのは無理だし、専門の技術者ならば、なおのこと営業マンのように立て板に水の説明は出来ないだろう。

何が出来るか知りたければ近くにあるコンピュータを触ってみれば良い、というのが「ふん」に含まれていた言葉だったんだろうと今になってみると思う。


私の仕事場は女性ばかりで、コンピュータに苦手意識を持っている人が多いせいか、何か不具合があると、比較的コンピュータに苦手意識の薄い私が呼ばれる。
簡単に対応できることならばすぐに終るが、いかんせん素人なので数時間かけて対処して、やっと何とかなる、ということもしばしばだ。


先日も一人でコンピュータの不具合に対応していたら、棚を隔てた向こうから、アンチパソコン派の言葉が聞こえて来た。
「パソコンなんて使うから何時間も人が対処しないといけない。昔はパソコンなんてなくても仕事は出来た。事務仕事は全部手書きに戻せば良い」という暴論だった。

アンチパソコン派の筆頭は90歳のおばあちゃんで、聞き手はその娘(50代)だ。
家族経営の会社なので、こういう無茶な理屈がしばしば出てくる。
慣れているから普段は聞き流しているが、ストレスフルな不具合対処中だったから、何だか腹が立って来た。
黙って聞いていたら、続いてこんな会話が聞こえて来た。


「ウィルスって何?」
「コンピュータに入り込んで悪さするものがあるの」
「ウィルスは空気中を飛んでるの?」
「違うって。メールなんかと一緒にコンピュータに入って来るんだって」
「そんなのはおかしい」
「おかしいったってしょうがないじゃん。そういう悪いことをする人がいるの」
「そんな悪い人はすぐに捕まるはずでしょ」
「次々出てくるからしょうがないの」
「そんなものを使うのが悪い。伝票を手書きで書いて、銀行に持っていけばあんなものは必要ない。あんなくだらない機械はやめて、手書きの台帳と伝票にすれば問題はなくなる」


無茶なことを言うと思って聞いていたが、考えてみれば、うちではしばしば見る光景だ。
90歳のおばあちゃんは、元々機械が苦手な上に、昨今の「猫も杓子もスマホ所持」現象に猛烈に腹を立てている。
仕事で使うパソコンに関しては、比較的黙っていることが多いが、 それでも根本的に機械に対する苦手意識が強いので、何かあった時に爆発する。


そうは言ってもこの90歳のおばあちゃんは、最近は銀行のATM機も使えるようになったし、 普段もレジやら電卓やら使っている。
ネットで調べてもらいたいということも頼まれるから、便利な機械ではある、ということは理解しているんだと思う。
ただ、自分がわからないことがどんどん進んで行くことに対して疎外感を覚えているんだろう。
言ってみれば興味はあるけど使えないから否定しておく、ということなのだと思う。


過去にもこのおばあちゃんから「コンピュータって何が出来るものなの?」と何度も聞かれた。
その度につたないながら説明してきたが、触らなければわかるはずもなく、結局納得する説明は得られないと思っていたんだろう。
年と共に頑固になって、最近は「あんなくだらないものはやめろ」という極論もしばしば口にする。
昔、私がSEに「コンピュータって何が出来るの?」と聞いても「ふん」と笑って答えてもらえなかった、その時のSEの気持ちがなんとなくわかる気がした。


最近よく報道で目にする「暴走する老人」は、今までの「年と共に丸くなる」という老人のイメージをくつがえし世間を驚かせた。
突然切れる老人の心の底にあるのは、件のおばあちゃんのように「知らないものがどんどん進んで取り残される恐怖」なんじゃないかと思う。
今回のおばあちゃんは「あんなものは全部やめて手書きに戻せ」という極論という形に出たが、言葉に変換されない疎外感が暴力に変わるのだ。

その気持ちは理解できるし歩み寄りが必要だと頭ではわかっているけれど、一生懸命不具合に対応しているそばで大声でパソコンの悪口を言われた時、私は素直に腹が立った。
感情のベクトルを合わせるのは難しい。
進み始めたものを戻すことはできないんだよ、ということを無理に理解させようとする若造の対応は、変化を理解出来ない老人からみたら暴力的な論理そのものなんだろうけど、優しく「そうですね」と言えるほどこちらも人間が出来ていない。


難しいもんだ。


トモエ算盤 そろばん 11桁 プラスチック P1000 白玉
「そんなに機械が嫌なら、もうそろばんでやって下さい」と言いたい。
レジ横のそろばんは、邪魔にならない小さいのが定番。消費税が導入されてからは出番なし。どこにしまいこんだやら。

池田プラスチック DX丸ざる 0号 ブルー AZL03
「そんなに機械が嫌なら、レジを使わず、ザルにゴムつけて天井から釣って、その中にお金を入れて金銭授受をして下さいと言いたい」と言ったらみんなに「八百屋かよ」と言われた。