2016年8月19日金曜日

映画「父親たちの星条旗」を見た



クリント・イーストウッドが監督を勤めた硫黄島二部作の一つ、アメリカ側から捉えた硫黄島での戦いを描いた「父親たちの星条旗」を見た。

アメリカは「ずーっと戦争をしてる国」と言われるけれど、面白いことにこと20世紀に起きた戦争を描いた映画の中で見るものは、敵国への恨みつらみではなくて、アメリカ国内の立場の違いから生れる内輪もめが結講多い。

この作品もほぼそれに近い。




クリント・イーストウッドの代表作の一つ、「続夕陽のガンマン」の原題は "The Good, the Bad and the Ugly "。
これほどわかりやすいタイトルもないなぁと感心するけど、彼がこの二部作で描きたかったと語ったものはそれとは正反対で、「戦争は善でも悪でもない」。


思うに利口な人は、善悪論に与しない。
善悪論はわかりやすいが、何を持ってして善、何を持ってして悪、という普遍的な定義付けなんて土台無理だとわかっているから、どちらが状況の上でよりマシか、という観点から方針を導き出す外ない。

あとは、自身の良心に背かないか否かという一人一人の納得の問題で、どれをとっても結局、善悪論は感情論であって、現実に対処する具体的な方法論の根拠には成り得ないのだ。



ショービジネスの世界で長い時間生き、成功を収め、政治家も経験したクリント・イーストウッドという人の頭の中は極めて冷めているように思う。

ハリウッド的には、世界大戦の勝利の裏にある国家の偽懣なんか描いたって楽しくもないだろうに、彼は淡々とした描写を丁寧に積み上げ、本質から外れていく理想論に精神を押しつぶされる若者たちの姿を描いた。

この舞台は第二次世界大戦ではあるけれど、おそらく休む間もなく紛争に加わって来たアメリカという国の中では、今現在でも垣間見る光景なのだろう。
そう考えれば、これは過去の思い出話ではないのだろうし、彼が言わんとした痛烈な批判は現代の政府への有り様に向けられているとも取れる。



原作を書いた作家のジェームズ・ブラッドリーは「この作品は、本当は20時間くらいかかる内容なのにクリント・イーストウッドがうまく2時間にまとめてくれた」みたいなことを語っていた。

戦闘シーンの回想と、英雄に祭り上げられて苦悩してく姿、時を経て晩年を迎え心の内にあるものを息子に伝えていく様子、というふうに数十年の時間を行ったり来たりしながら、見ている人間の心の内に矛盾と疑問を染み入らせ、「あなたはどう考えますか?」と問いかける構成になっている。

クリント・イーストウッドという人の真骨頂はこういうクリエイティビティにあるのだろうし、彼の持つ世俗を知り尽くした芸術家の視点が、彼をただの俳優監督以上の存在に位置づけているのだろうと思う。

怜悧な人ではある。