2016年9月16日金曜日

映画「ウワサの真相 ワグ・ザ・ドッグ」を見た



映像というのは恐ろしい。

某中東過激派組織も欧米で不満を持って暮らす人達を勧誘するために、ネット上で極めてカッコいい映像を流していたそうだ。

それでなくとも現代の映像加工技術の発展というのは凄まじく、腕にもよるが「出来ないことはない」と言われている。1990年代半ばですでにそう言われていたのだから、20年経った今ならどれだけ進んでいるのか想像に難くない。

公共の電波を使って公開された映像すら、絶対的に真実とは言い切れない。ならば私が見たあの映像は?と思わせる、ユーモラスでちょっと恐い話がこの映画である。



「ワグ・ザ・ドッグ」は、大統領のスキャンダルを隠すためにありもしない戦争をでっち上げて目線をそらす過程を描いている。

大統領の要請のもと、全体の指揮を執るのが「スピン・ドクター」と呼ばれるプロのもみ消し屋で、そのスピン・ドクターをロバート・デニーロが演じている。

利口な人というのは得てして自分を利口に見せない。見るからに怪しい詐欺師というのはこの世には居ない。彼等は大抵ニコニコと人の良さそうな顔をしているし、警戒させない距離感を保っている。「まさかあの人が」と思わせる空気をまとっていながら、ある時豹変するから恐ろしいのだ。

この映画の中でも、アメリカ全体をだまそうとするもみ消し屋のコンラッド(デニーロ)が、始終戯画的な服装に人の良さそうな笑顔で佇んでいる。


この映画を見ると、おそらく誰もがビル・クリントンの「不適切な関係」のスキャンダルや、イラク戦争開戦時に様々言われた噂を思い出すだろう。

ビル・クリントンのスキャンダルはすったもんだした挙句ご当人が認めたが、イラク戦争はずいぶん経ってからしれっと「核はなかったみたい」と発表された。
アメリカの中に厭戦ムードもあったのかもしれないが、信じられない軽いノリで短くニュースで伝えているのを聞いて「それだけ?」と思った覚えがある。

イラク戦争の動機に挙げられた様々な疑惑が本物だったのかどうかは私にはわからないが、この映画でもチクチク突つかれていたように、当時から様々な噂はあった。

とある事物から眼をそらすために別の所で打ち上げ花火を上げる、というのはスリから国家まで古今東西使いつくされた騙しの王道である。
残念なことに我々人間はいまだにその古典的な手から逃れる方法を開発出来てない。


以前少し印刷物の制作の現場に携わったことがあって、その時クリエイターチームの打合せに何度か参加した。

この作品の中でダスティ・ホフマン演じるプロデューサーのスタンリーとクリエイターチームの演出打合せの空気そのもので、各々が持つ能力を出し合い一つのものを作る時に起きる流れが出来始めると、企画はどんどん進む。

お互いが相手の力を引き出す関係にあるときは良いのだけれど、エゴが表に出るとそれはそれは悲惨な成り行きになる。創造性とエゴは表裏一体でもあるからだ。

ものづくりに自分の能力を差し出すことでクリエイター魂が満たされ満足出来れば良いが、エゴの方が大きいとそうもいかない。携わった仕事の大きさと破壊力は比例するようで、役割を忘れエゴに負けたクリエイターがどうなるか、この物語のオチが教えてくれる。